神経膠腫(grade 2-4)-治療・予後- | 福岡の脳神経外科 - はしぐち脳神経クリニック

神経膠腫(grade 2-4)-治療・予後-

Glioma (therapy & prognosis)

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神経膠腫(grade 2-4)-治療・予後-

治療は?

神経膠腫の治療の第一歩は手術です。

これは、grade 1-4の全ての腫瘍に対して言えることですが、できるだけ安全に多く摘出することが、治療成績を左右する最も重要な要素の一つです。

ただ、神経膠腫は脳の中に浸み込むようにして広がっていくので、正常脳組織と腫瘍との間に明確な境界は存在しないものと思ってください。つまり、正常脳を切り取らない限り腫瘍を全て取り切れることはないし、腫瘍を全て取り切ると何らかの障害が残る可能性が高いのです。現実的には、腫瘍を部分的に残さざるを得ないケースが大変多いのです。

そのうえで、追加治療についてはgrade 2の星細胞腫の場合と、grade 3以上の腫瘍の場合とでやや異なります。

なお、近年の神経膠腫の診断は、顕微鏡での見た目だけでなく、遺伝子の特徴(主にIDH変異の有無)を組み合わせて厳密に分類されるようになっています。これ以降の解説をお読みいただくにあたり、現在の基準では以下のように定義されていることを知っておいてください。

  • 星細胞腫(Astrocytoma): 基本的にIDH変異を持つもの(grade 2〜4)

  • 膠芽腫(Glioblastoma): 原則としてIDH野生型(変異なし)の最悪性のもの(grade 4)

これらを踏まえたうえで、それぞれの治療方針について個別に説明いたします。

 

Grade 2の星細胞腫に対する治療

Grade 2の星細胞腫に対しては、手術により可能な限り全摘出することが大変重要です。但し、grade 2の腫瘍の患者さんのその後の人生を考えると、後遺症が出ることはなるべく避けたいところです。

実際には、脳腫瘍のうち機能障害を残さずに取れるところの殆どを取ってしまします。脳腫瘍の存在部位から、脳腫瘍の周囲にある脳機能は大体想定できます。更に、術前に必要に応じて脳機能分布をみる検査(MRI(機能的MRIやtractography)や脳磁図検査、Wada testなど)を用いて脳機能の分布について把握します。

その上で、手術中には誘発電位モニタリング術中脳ナビゲーションシステムを用い、時として覚醒下手術を行います。施設によっては、術中MRI検査を行って、どの程度摘出したかを確認しながら手術を進める病院もあります。手術では、こうした脳機能評価システムを駆使して、脳機能障害が生じる手前のぎりぎりのところまで腫瘍を摘出します。

Grade 2の腫瘍に対する放射線治療抗がん剤による治療の効果、及びこうした方法をどの段階で行うかについては議論の分かれるところであります。手術により腫瘍の殆どを摘出できた場合には、直ちに追加治療を行う必要はないと思います。一方、明らかな腫瘍の残存がある場合には、近年ではIDH変異を標的とした経口分子標的薬(ヴォラシデニブ)も治療選択肢の一つとなっており、患者さんの年齢、残存腫瘍の量、症状などを考慮して、経過観察、分子標的薬、放射線治療、あるいは化学療法を組み合わせて治療方針が決定されます。なお、同じ部位に放射線を照射できる量には限界があるので、再増大時のために放射線照射という手段を残しておくことも一つの方法ですが、どちらが優れているのかについてはっきりしませんので、最終的には患者さんごとの病状に応じて治療方針が決定されます。

放射線の照射量は施設や症例毎に異なりますが、だいたい合計50~54グレイ程度を週に5回、6週間程度に分けて照射します。なお、ガンマナイフの有効性については一般的に認められていないと思います。

こうした一連の治療が終わった後は、外来で経過観察します。3か月から半年ごとにMRI検査を長期に続け、再発や悪性転化(より悪性度の高いgrade 3またはgrade 4へ進行すること)がないかどうかを確認します。

 

Grade 3・Grade 4の神経膠腫に対する治療

Grade 3(IDH変異型星細胞腫:以前は「退形成性星細胞腫」と呼ばれていました)とgrade 4の神経膠芽腫に対する治療方針には、共通する部分が多いです。

 

手術

手術がとても重要な役割を果たすことは、grade 2と共通です。手術で可及的最大限に摘出することが最も良い結果につながります。とは言うものの、grade 4の腫瘍では、画像上は全摘出できても、顕微鏡レベルでは腫瘍細胞が脳内に浸潤しているため、真の意味で完全に摘出することは困難です。

Grade 4の腫瘍による症状が現れて発見に繋がり、治療に臨む時期にはそれなりに大きなものになっています(偶然検査で見つかった時には小さい状態で見つかることもあります)。更には、上述のように脳腫瘍の性質上、脳に浸み込むように大きくなるので、全て摘出できることは滅多にないのです。

手術の目標は、後遺症を最小限にしつつ、造影剤で白く映る部分の腫瘍を全て取り切ることです(その周囲の、腫瘍が浸み込んだ部分は残ります)。但し、手術で症状が改善することは少ないです。手術の目標は、出来る限りの長期生存を目指すことにあります。造影剤で白くなる部分(腫瘍密度が高いところ)のうち、95%以上取れたかどうかがその後の経過の分岐点と言われています。

手術摘出率を上げるために、各病院ではそれぞれの工夫を行っています。大病院の脳神経外科における術中脳ナビゲーションシステムの普及率は高いですが、その他にも5-アミノレブリン酸(5-ALA)を用いた腫瘍の術中蛍光造影術中エコー術中MRIなどを駆使して腫瘍摘出率を評価します。また、脳機能温存のためには術中脳機能モニタリングを行いますし、施設によっては覚醒下手術を行うかもしれません。

 

その他の治療

Grade 3と4の脳腫瘍に対する治療は、ここ20年ほどで様変わりしました。特に変わったのは、腫瘍に対して使える薬の種類が増えたことです。

2005年まで、わが国で神経膠芽腫に対する標準治療薬はニドラン(ACNU)という薬のみでした。2006年7月に、テモダール(テモゾロミド)という薬が認可されてから、分子標的薬や腫瘍治療電場療法(オプチューン)、ウイルス療法など、新しい治療法が次々と導入され、治療の選択肢は大きく広がりました。

 

 ギリアデル(カルムスチン)

まず、手術中に使える薬として、ギリアデル(カルムスチン)というものがあります。我が国で2012年に認可を受けたギリアデルは、BCNU(カルムスチン)という抗がん剤を含んだウエハー(直径14mm、厚さ1.3mmのタブレット状の薬)です。これを、腫瘍摘出後の断端に置きます。一回の手術で8枚まで認められています。主な目的は、手術後から組織診断がつき、手術の傷が治り、放射線・抗がん剤による治療を開始するまでの2週間あまりの間に残った腫瘍が増大するのを抑制することです。ギリアデルを切除断端に置くと、断端から染み出て効果を発揮します。効果があるのは、留置した表面から5mm程度とされています。なお、腫瘍がたくさん残っている場合にはギリアデルの効果は期待できないので、そのような患者さんにはこの薬は使用の対象から外れます。
近年では、テモゾロミドやその他の治療法の普及に伴い、ギリアデルを使用する施設は以前より少なくなっていますが、症例によっては現在でも選択されることがあります。
ギリアデルを留置により、脳が腫れることがしばしば問題になります。その他、けいれん発作、創部の治癒経過の悪化、感染症なども生じえます。

 

 レザルフィン(タラボルフィン)

術前日にレザフィリン(タラポルフィン;蛍光物質)という薬を注射し、術中にレーザー光線を照射する光線力学療法(PDT)が2014年に承認されました。現在では、一部の専門施設で適応を慎重に選んで行われており、一定の有効性が報告されていますが、すべての患者さんに適応となる治療ではありません。

 

 ストゥップレジメン(放射線治療+テモダール(テモゾロミド)

術後に診断がついたら、手術創の治癒に問題がないことを確認し、放射線治療テモダールによる治療を行うのが、神経膠芽腫(grade 4)に対する標準治療とされます。また、grade 3の一部の神経膠腫に対しても、病理診断や遺伝子異常に応じて同様の治療が選択されることがあります。

初期治療として、放射線を30日間(合計60グレイ)と、体表面積当たりで決められた量(75mg/m2)のテモダールを内服します。放射線は、腫瘍とその周辺に照射します。この治療は、30日ですが、週末は治療がお休みになりますので、6週間かかります。ここまでで、初期治療が終わり、患者さんが自立した生活を行えるようであれば退院となります。

テモダールの副作用は、倦怠感、胃腸障害(食欲不振、おう吐、便秘)、骨髄抑制(貧血、白血球、血小板の減少)、免疫能低下による肺炎(ニューモシスチス肺炎などの日和見感染症)などです。胃腸障害に対しては、制吐剤(吐き気止め)や緩下剤(便秘薬)を使用して対処できますが、骨髄抑制が高度の場合には薬の減量、一時休止や中止などの判断をせざるを得ないかもしれません。

退院後は、テモダールを4週間おきに5日間内服する治療が始まります。この時点からは、1日に内服する量が増えます(150-200mg/m2)。外来で採血を受けて副作用が出ていないかをチェックします。また、数か月ごとにMRIで腫瘍の再発や増大がないかを確認します。維持療法は通常6~12コース程度行われますが、患者さんの状態や治療効果、副作用などを考慮して継続期間が決定されます。費用もかなり掛かりますので、薬を中止するタイミングについては、主治医の先生と相談して決めてください。

なお、放射線治療の一種である「ガンマナイフ」の有効性については、一般的に認められていないと思います。

 

 アバスチン(ベバシズマブ)

最近使用可能となった薬に、アバスチン(ベバシズマブ)というものがあります。これは、わが国で2013年に悪性神経膠腫に対する使用が認可された薬で、分子標的薬と呼ばれるタイプのものになります。

腫瘍の栄養血管が増えることを妨げることで、腫瘍の増大を抑制します。脳腫瘍以外の全身のいろいろな悪性腫瘍に対しても使用が認められています。海外では主として再発例に使用されることが多い一方、わが国では初発時から使用が認められています。この薬は、腫瘍に伴う症状を改善する効果は期待できますが、現在までのところ、生存期間を延長する効果は明確には証明されていません。なお、アバスチンに対する反応が悪い患者さんもおり、全員に一様に効果を発揮するわけではありません。

アバスチンは、2週間に1回点滴して用います。外来で行うことができます(通常、外来で使用すると思います)。副作用として、頻度は低いながらも重大なものに出血が挙げられます。腫瘍からの出血のみならず、脳出血や肺出血、消化管出血などを起こします。また、傷の治りも悪くなります。手術を受けてから少なくとも4週間以内の患者さんには用いることができません。

 

 オプチューン(腫瘍治療電場療法:Tumor Treating Fields, TTFields)

非常に特殊な治療として、オプチューン治療というものがあります。以前は1か月あたり300万ほどかかり自費であったため、普通の患者さんにはまず不可能でしたが、現在は初発の神経膠芽腫に対して保険が適用されるようになり、高額療養費制度を利用して受けることが可能となりました。

これは、オプチューンという装置を頭に装着して生活する治療法です。この装置から、交流電場(腫瘍治療電場:TTFields)が発生し、腫瘍の増殖が抑えられるというものです。装置を頭皮に密着装着するため、完全に剃髪し、1日18時間以上装着して生活しなければなりません。使用にあたり、医師・医療スタッフも講習を受けなければなりませんし、一部の施設でのみ受けることが可能です。全生存期間を有意に延長することが証明されています。

 

 Grade 2〜3への最新情報:分子標的薬「ヴォラシデニブ(商品名:ボラニゴ)」

IDH1/2遺伝子変異(IDH変異)を持つGrade 2(および一部のGrade 3)の神経膠腫に対して、その変異を狙い撃ちして増殖を抑える新しい飲み薬である経口分子標的薬「ヴォラシデニブ(Vorasidenib)」が登場し、臨床で重要な治療選択肢となっています。

これにより、「手術後の経過観察」の期間を大幅に延ばしたり、放射線や化学療法の開始を遅らせたりできる可能が高まっており、手術後の新しい治療選択肢として注目されています。

 

再発した場合にどうするか

再発時における治療方針は定まっておらず、患者さんの状態と主治医の判断によります。

前提として、再発かどうかの見極めが重要です。MRIで再発が疑われても、テモダールを使用したことによる腫瘍の疑似増悪(pseudo-progression)かもしれませんし、放射線照射部位の脳の放射線壊死かもしれません。これらの病態と腫瘍の増大を明確に区別することはしばしば難しいものです。テモダールによる疑似増悪であれば、3~6か月で安定化すると言われますが、その間は慎重に経過観察せねばなりません。

Grade 2では、再発時に可能な限り腫瘍の摘出を行ったほうがいいかもしれません。その上で更に残存腫瘍がある場合には、放射線照射や抗がん剤治療をを行っていないなら、こうした治療を行うかどうかを検討すべきです。また、IDH変異を有する腫瘍では、ヴォラシデニブ(ボラニゴ)が治療選択肢となる場合もあります。

Grade 4については、基本的に再発時の再手術による大幅な延命効果は期待しがたいところもありますが、脳のごく一部に限局して明らかな腫瘍が出てきて、それを完全に摘出できると判断できた場合には摘出も選択肢だと思います。

再発時には、それまで使用していた治療薬の効果が十分でなくなった可能性がありますので、病状に応じて他の薬剤への変更や追加治療が検討されます。アバスチン、ニドランなどかもしれません。なお、近年、再発した悪性神経膠腫に対する新しい選択肢として、がん細胞だけを特異的に破壊するウイルス療法薬「デリタクト注(テセルパツレブ)」が承認されました。現在、一部の専門施設で実施されていますが、適応となる患者さんは限られており、有効性については今後さらに検証が進められています。

その他、免疫療法などについては一部の施設で試行的に行われていますが、こちらはまだ一般的に認められるレベルには至っていません。

ガンマナイフについても、大きな効果を期待していいものではないとされています。

 

神経膠腫の予後は?

Grade 2の場合

Grade 2の腫瘍の場合、最良の治療を受けた場合の5年生存率は平均で7割程度あり、平均で8~15年程度の生存期間が見込まれます。ただ、更に長期間再発なく生存できることもありますし、逆に経過中に悪性度の高いものに変わってしまうこともあります。若年者全摘出できた症例症状が軽い人では、経過がいいことが多いとされています。

 

Grade 3の場合

Grade 3のIDH変異型星細胞腫(以前は「退形成性星細胞腫」と呼ばれていました)であれば、生存期間の中央値は6~10年程度と報告されています。予後はIDH変異の有無やCDKN2A/B欠失などの遺伝子異常、摘出率、年齢などによって大きく異なります。

 

Grade 4の場合

神経膠芽腫の場合の生存期間中央値は16~20か月程度です。

ただ、運よく完全に全摘出できた例や、テモダールが著明に効いた症例では、長期生存もあります。

基本的には厳しい見込みが予想されますので、高齢者や、全身状態が悪い患者さんにおいては、無理に治療することばかりが唯一の選択肢ではないと思ってください。

予後に関係する因子として、患者さんの年齢が若いほど、自立度が高いほど予後がいいと言われています。分子マーカーとしては、IDH1/2変異があれば、予後がいい可能性がありますし、またMGMTプロモーターのメチル化があればテモダールの高い効果が期待できるため、予後がいい可能性があります。

 

最終改訂日:2026年7月20日